
「ライフログ」として寄り添う手帳。手帳の新たな使い方
年末や年度末、これからの1年をどのように過ごそうかと毎年手帳選びに頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
手帳探しをしてみると、その種類の豊富さを目の当たりにします。手帳のバリエーションは過去に比べ増えています。手帳を選ぶことは、自分との向き合い方を決めることでもあります。
これまでスケジュール管理が主な目的であった手帳が、豊かな時間を手にするために寄り添うツールとして使用される傾向にあります。手帳のトレンドや特徴は時代を映す鏡。ライフスタイルの多様化に合わせ、手帳の使い方も変化しています。
手帳の新たな使い方とは何か、その背景に触れながら変わる手帳のいまを紐解きます。
変わる手帳の役割 新たな手帳の使い方とは
3000種以上の手帳が店頭に
過去と比べ種類が増えている手帳、雑貨店や文具店を訪れたりWebで検索するとその広がりが見て取れます。
実際どれくらいの種類があるかというと、たとえば渋谷にある雑貨店「渋谷ロフト」の店頭には約3400種以上の手帳が並んでいます。それらを眺めていると、手帳が担う新たな役割が見えてきます。
アナログとデジタルの併用
これまでの手帳の役割の主流は、スケジュール管理でした。今もそれは手帳が担う役割といえますが、スマートフォンアプリやPCツールの広がりによって変化が起きています。
高橋書店が全国の10~60代1000人を対象に実施した手帳に関する意識調査「手帳白書 2023~暮らしと手帳のすゝめ~」では、手帳をメインに使うユーザーのうち、スマートフォンアプリやPCツールなどその他のスケジュール管理ツールも併用している人は93%という結果が出ています。

同調査の中で、それぞれを併用する理由として最も多い回答は「手帳とアプリそれぞれに利点があるから」でした。この結果から、手帳がスケジュール管理以外で活躍していることを見て取ることができます。つまり、手帳に新たな使い方が見出されているのです。
3000種以上の手帳から見えるトレンド分類
3000以上の種類がある手帳からカテゴリーを取り出して分類し、それぞれ具体的な製品あげ、手帳の新たな使い方を見ていきます。
【趣味を推した手帳】
趣味や推しのアーティストやアイドルなど、自分の好きの対象へのいわゆる「推し活」専用のコンテンツが充実。 | |
1日ずつ漫画のコマになっていて、吹き出しに思い出や予定を書くと自分が漫画の主人公に。 |
【使い方の幅が広く自由度が高い手帳】
縦軸のバーチカル部分に時間の記載がない点やデイリーページに日付が設けられていないことで、レイアウトを自由に使える。 | |
1日1ページ、広い記入スペースを確保し、30分刻みで24時間書き込める時間軸で構成され高い自由度を持つ。 |
【タスク整理を押し進める一覧性に優れた手帳】
年・月・週を見開きで同時に見られ一覧性に優れる。 | |
進行管理に使われるフォーマットのガントチャートを採用し、プロジェクトの工程や進捗の一覧が可能。 |
【ライフログや自己実現のツールとしての手帳】
一生つかえる手帳をコンセプトとし、DIARY・LIFE・IDEAの3つのノートを1冊にして使う。 | |
出来事・気づき・次への行動を3STEP(3枠・3行)で可視化。 | |
自分の小さな野心をかなえていくというコンセプトのもと、毎月のウィッシュリスト・自己分析マップ・プレゼントリストを備える。 |
「ライフログ」としての手帳 その背景とは
注目したいのは2023年の手帳として豊富なバリエーションを展開する「ライフログ」のカテゴリーです。ライフログとは、体調や睡眠、運動、食事、習慣などを記録することをいいます。
ライフログとしての使い方をする人が増えた背景には2つの要因があります。
1.進むデジタルデバイスでのスケジュール管理
高橋書店による手帳に関する調査結果も示すように、スケジュール管理の役割がデジタルデバイスに移行しています。そこで、もともとスケジュール管理を担っていた手帳の使い方が見直され、新たな役割が見出されたのです。
2.外出機会減少による「自分と向き合う時間」の増加
コロナ禍をきっかけに外出機会が減り、自分と向き合う時間が増える傾向がありました。また手帳に書き込む予定が減ったことも、代わりにライフログを記す動きにつながりました。そこで、自分を見つめ直すツールとして手帳を使う人が増えたのです。
新たなトレンド「セルフケア」がエンジンに
「セルフケア」が新たなトレンドとして浮かび上がっていることも、手帳の「ライフログ」としての潮流を加速させています。
「セルフケア」は、米Pinterestが画像・動画共有サービス「Pinterest」ユーザーの検索内容分析をもとに行った2023年のトレンド予測「Pinterest Predicts 2023」にて注目を集めています。
「セルフケア」とは、自分自身で心身を癒し健康を管理することです。このセルフケアの手段として、ライフログを担う手帳が用いられています。
自分の心身の健康管理のために、体調や睡眠、運動、食事、習慣などを日々記録。その記録をもとに自分を見つめたり自身の行動を客観視したりと、「セルフケア」と手帳は相性が良いです。
ライフログを手帳で行うメリットとして、「できたかできなかったか」の2択だけでなく、「3割はできた」などグラデーションを持って記録することができます。
また生活に関して記録するだけでなく、あるテーマに沿って自分の頭にあるものを書き出す「ジャーナリング」での使用も見受けられます。感情に焦点を当て、誰にも見せない手帳に自分の本音や心の声を書き出すことで、より自分への理解が深まります。
その他、目標を達成したり願いや夢を叶えたり、自己実現のツールとして手帳を活用する潮流もあります。

「手帳時間」・「手帳タイム」は自分と向き合う時間
手帳に書き込んだり振り返ったりする時間が、思考の整理のために活用されています。「手帳時間」や「手帳タイム」とも称され、自分と向き合う時間なのです。
手帳に書き込むことで頭の中が整い、それを振り返ることで自分の行動記録や達成・前進を客観的に確認でき、自己肯定感を高めることにもつながります。
朝・就寝前や休日に、またカフェやお気に入りのスペースで、など時間や場所を決めて「手帳時間」を習慣化する様子も見受けることができます。
手帳アクセサリーで自分流にカスタマイズ
手帳の種類や使い方の多様化だけでなく、シールやマスキングテープなどの手帳アクセサリーを使って自分流に手帳をカスタマイズする人も増えてきました。単価の高いスタンプなどの製品が売れています。
カスタマイズで日々に特別感を
その背景には、手帳アクセサリーによって書いた予定を目立たせて特別感を出したり、目標達成やその過程をより深く味わったり、自分の感情や気持ちを幅広く表現したいなどのニーズがあります。
手帳アクセサリー以外では、イベントや旅行、訪れた場所のチケットや半券などを手帳に貼るアレンジ方法もあります。後で振り返ったときに、より当時の感情を思い出したり浸ったりしやすくなります。
じっくり自分に向き合う手段として「手帳時間」に重きを置く人が増えた結果とも言えます。
SNSで手帳の中身をシェアする新たな楽しみ方も
「誰にも見せない手帳」として他人の目線を意識せず自分の本音や感情を記す使い方もある一方で、自分流にカスタマイズした手帳の中身をSNSでシェアする新たな楽しみ方も広がっています。
たとえばインスタグラムなどのSNSで「#手帳タイム」や「#手帳の中身」の言葉で検索すると、10万以上の各々に彩られた手帳の投稿を見ることができます。使い方を含めて手帳の選択肢が広がったからこそ、利用者の数だけオリジナルがあります。

日本の手帳の歴史
番外編として、日本の手帳の歴史にも触れていきます。
日本の手帳の歴史に影響を与えた手帳
日本の手帳の歴史において欠かせないのが「能率手帳」です。
1949年、「能率手帳」は日本で初めての時間目盛りのついた手帳として誕生しました。能率手帳の生みの親といえるのが日本能率協会の当時の理事であった大野巌氏。
大野氏は化学機器メーカー経営者で、生産性向上のコンサルティングを得意としていました。生産性向上のためには時間の使い方が大切との考えをもっていて、手帳を用いてその意識を従業員に浸透させました。それが「時間目盛り」というアイディアにつながったのです。
かくしてスケジュール管理を行うことができる「能率手帳」が生まれ、これを原型にビジネス手帳が普及していったのです。また「能率手帳」は2013年に「NOLTY」に名称を変え、現在も同ブランドの手帳が販売されています。
「日本初の手帳」は江戸時代
日本初の手帳となると、江戸時代まで遡ります。豊臣秀吉の時代、役人が検地の際に野外で記入した仮の帳簿「野帳」が日本の手帳の最初といわれています。
また、俳諧師や戯作者などがいつも手もとに置き、心覚えのためにいろいろな事柄を書き込む帳面も手帳と呼びました。「ライフログ」として手帳を使用するようになった現在につながる部分が見えてくるようです。
手帳を軸に自分をつくる
これまでのスケジュール管理からライフログとしての新たな役割を担う手帳。時代背景がもたらしたこの変化によって、手帳は自分と向き合うことに寄り添うツールとして機能しています。
手帳を軸に目標や夢について考えたり追いかけたり、生活を記録したり見直したり、日々自分と向き合う時間をつくることはその先の自分をつくります。